暮らしの中には、理由ははっきり言葉にできなくても、置くと気持ちが落ち着くものがあります。飾り、食べ物、動物の意匠、自然のかたち。日本ではそれらを「縁起」として受け止め、節目や日常の中に静かに取り入れてきました。
縁起物は、運を強く引き寄せるための道具というより、心の向きを整えるためのしるしのような存在です。由来を知ることで、ただの飾りや習慣だったものが、暮らしを支える意味を持ちはじめます。
このページでは、飾り・食・守り・動物・植物・自然の兆しまで、日本で受け継がれてきた縁起物をまとめています。季節や行事に限らず、今の生活にそっと取り入れられる知識として読んでみてください。
縁起のいいモノ一覧
年のはじまりを整える迎春のしるし
正月を迎えるために、家の内外を清め、神を迎える“場”を整える飾りです。地域や家ごとの違いはあっても、「新しい年を迎える境目をつくる」という役割は共通しています。
- しめ飾り(注連飾り) — しめかざり
玄関や神棚に掛け、内と外を分けるしるし。清らかな領域を守り、災いを遠ざける願いも重ねられてきました。 - しめ縄 — しめなわ
神聖な場所を示す結界として扱われる縄。年の節目に張ることで、場を引き締める意味合いが強まります。 - 門松 — かどまつ
年神を迎える目印として門口に立てられてきた飾り。松や竹の生命力に、新しい年の息吹を託します。 - 鏡餅 — かがみもち
年神の依り代として供えられる飾り餅。丸い形に、満ちる・重なるといった吉意を重ねてきました。 - 輪飾り — わかざり
玄関などに掛ける簡素なしめ飾り。暮らしに取り入れやすい迎春のしつらえとして親しまれています。 - 玉飾り — たまかざり
丸みのある意匠を配した正月飾り。円満やまとまりの良さを連想させ、家の空気をやわらげます。 - 干支飾り — えと飾り
その年の干支を飾りに取り入れる習慣。年替わりの節目を意識し、一年の守りとして楽しむ人も多いものです。 - 鏡開き(鏡餅の開き) — かがみびらき
鏡餅を「切る」を避けて「開く」と言い、いただいて福を分かち合う行事。新年の力を口にする節目として受け止められてきました。
新年の力を口に取り込む祝いの食
正月の料理や食材には、健康・繁栄・長寿などの願いが折り重なっています。味わいながら一年の無事を思う、食の縁起です。
- お屠蘇 — おとそ
生薬を用いた祝い酒。邪気を払い、長寿を願って正月にいただく習わしが伝わります。 - 雑煮 — ぞうに
餅と具材を合わせて食べる正月の汁物。家ごとの違いも含め、新年の力を取り込む食として語られます。 - 黒豆 — くろまめ
「まめ=丈夫・健康」「まめに働く」に通じる食材。元気に過ごす願いを込めて食卓に上ります。 - 数の子 — かずのこ
卵の多さに子孫繁栄の願いを重ねた祝い肴。新年の膳の代表格として定着しています。 - 田作り — たづくり
小魚を田の肥料にした話にちなむ祝い肴。五穀豊穣や実りへの祈りと結びつきます。 - 紅白なます — こうはくなます
紅白の色合わせに祝意を託した酢の物。口を整える役目もあり、膳に軽やかさを添えます。 - 伊達巻 — だてまき
巻物を思わせる形から、学びや知恵に恵まれる願いが語られてきました。 - 昆布巻き — こんぶまき
「喜ぶ」に掛けた縁起が親しまれる料理。祝いの席で扱われやすい定番です。 - 結び昆布 — むすびこんぶ
結び目に「良い縁が結ばれる」願いを重ねる食材。煮しめなどにもよく使われます。 - 栗きんとん — くりきんとん
黄金色を財宝に見立て、豊かさを願う料理。正月の膳を明るくする一品です。 - 海老 — えび
腰が曲がるまで長生きする姿にたとえ、長寿の願いを託して食べられてきました。 - 蓮根 — れんこん
穴が空いて先が見えることから、見通しの良い一年を願う縁起に結びつきます。 - かまぼこ — かまぼこ
紅白の色合いが祝いを表す定番。切り口の美しさも含め、膳を整える役割を担います。 - 鯛 — たい
「めでたい」に通じる祝い魚。姿焼きなどで、正月の華やかさを象徴します。 - ぶり — ぶり
出世魚として知られ、立身出世の願いを込めて用いられる地域があります。 - ちょろぎ — ちょろぎ
おせちに添えられる食材のひとつ。「長老喜」「千代呂木」などの字を当て、長寿やめでたさと結びつけて語られます。 - あわび — あわび
焼き物などで正月の膳に入ることがある食材。晴れの席を豪華に整える一品として扱われます。

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